昨年秋に、この伝統ある福島ロータリークラブに入会させていただきました。仕事の方がなかなか忙しくて、例会に参加する回数が少なく、申し訳なく思っております。
本日は新入会員スピーチということで、話をしなければならないわけですが、これを機に、改めまして宜しくお願いしたいと思います。私自身、堅い、生粋の技術屋でして、気の利いた話が出来なく、つい自分自身の仕事に関することになってしまいますが、ご容赦願います。
福島ロータリーに来まして、何人かの方々と名刺を交換する機会 がありました。今まであいさつさせていただいた方々、特に長年、ロータリーで活躍されている方々にごあいさつ申し上げたところ、そのほとんどの方は「ああ、あのNOKさんの事業部長ですか」という言葉に続いて「今、あの人はどうしていますか?」と言って、歴代の事業部長、工場長の名前と、思い出話が出てきます。しかもその内容は、夜、よく飲みにいった話とか、ゴルフや競馬に行った話とか、そのような類の話が多く、ロータリーの奉仕の活動とは程遠い話ばかりです。歴代のNOKの事業部長、工場長という人たちの人間性を知る思いがしました。それというのは、私も日頃、その人たちと仕事を一緒にしてきましたので、大体「明るい、酒のみ、グルメ、ギャンブル好き、ゴルフ好き、負けず嫌い、そして仕事好き」というのが定評かと思います。企業に「企業風土」というのがあるとすれば、こういうところにもあらわれているのかなぁと思ってしまいます。私としては、こうでないと事業部長は務まらないのかと、少し不安になるところがあります。歴代の工場長、事業部長という人たちは、そのほとんどの人は、総務、人事、営業、管理畑などを経験してきた人たちで、いわゆる文科系でして、実は、私はそれらの人たちとは全く異なっていて、生粋の技術系です。技術系の中でも化学屋でして、大学の専攻は高分子化学、すなわち合成樹脂とか合成繊維、合成ゴムというような、合成石油化学製品の物性に関するモノで、会社に入りましても、NOKの製品を構成している材料の研究開発に30年近く従事し、その後は、品質管理、生産技術といった非常に堅い分野を経験してきました。
また、趣味はゴルフはつき合い程度ですが、歴史大好き人間でして、歴史小説を愛読し、このところは司馬遼太郎、藤沢周平、池波正太郎、中国モノでは宮城谷昌光を読破し、ここに来てせっかく、福島県に赴任してきたわけですから、福島や東北地方の歴史をということから、早乙女貢の「会津士魂」や「奥の細道」をせっせと読んでいます。そしてそれらの本や特に、司馬遼太郎の「街道をゆく」の東北地方シリーズを片手に、暇になるとカメラをぶら下げて、車で出かけて見て回ることを趣味にしています。最近は「日本の名城・古城辞典」というTBSブリタニカから出ている本を参考に、そこに出ている東北地方にある城や城跡を片っ端から見て回ろうとして、始めています。昨年1年間で、約10ヵ所回りました。これからも月1回のペースで行きたいと思っています。歴史というのは大体が勝者側からの記録ですが、小説家から見ると、その表ばかりではなく裏側、内面をえぐり出すわけで、常に物事を多面的に見る訓練にもってこいで、これは正に技術の世界に通じるところがあり、私にとってはかけがえのないものです。
さて、私どもNOKという会社のことは、昔からの会員の方はご存知かもしれませんが、新しい方にはなじみのない会社と思いますので、ここで簡単に紹介したいと思います。NOKは以前は日本オイルシール工業株式会社と言っておりました。オイルシールというのは、パッキンと言われる油を止める装置の一つです。いろいろな回転するところにはベアリングが付いていて、そこにはグリースや潤滑油が多く使用されています。例えば昔、電車の車軸のところはぐるぐる回転する部分がむき出しで、そこにグリースがいっぱい付着していて、路線に油がたくさんこぼれていたのを見たことがあると思いますが、最近はあまり見掛けませんね。また、昔は車の駐車場や道路に油が結構こぼれていて、雨が降ると、油膜がよく浮いていました。最近は全くそれがありません。これは油が外に漏れ出さないように、または外からゴミやほこり、水が機械の中に入り込まないように、ベアリングの外側にゴム製の輪っぱを付けているからです。そういう機械の回転する部分に付けて、いわゆるシールする道具がオイルシールというものです。特に自動車や乗り物には、多く使われています。
昭和30年代後半、これから自動車の時代がくると予測した先代の鶴正吾という経営者が、企業拡大の足がかりに外資を導入し、まず藤沢の地に大規模な工場を作り、ついで昭和43年、福島市の企業誘致第1号の会社として、南福島の駅の近くに、工場を進出しました。現在、3.3万坪の土地に、従業員数約1,000人、この他福島、宮城地区に事業部直系の子会社6社に約900人、さらに部品の供給会社、協力会社をいれますと全部で約2,000人の人たちと共に仕事を行っています。このほか日本国内、海外を入れ、NOKグループとして100社近い会社でグループを構成していますが、この福島の工場が最も大きな工場です。日本ではシェアは80%とも言われています。日本一の規模を持つ工場ですが、世界的に見ても恐らくベスト3に入る有数な工場と思っています。
それでは、会社では日頃どんなことを皆に言い聞かせているかというと、まず会社の基本的な理念についてです。今、世間でよく言われているのは企業の社会的責任についてです。ステークホルダー資本主義という言葉がありますが「企業がステークホルダー(利害関係者)に代表される社会の利益のために行動することこそ企業倫理」というわけです。今でこそ、この言葉はごく当たり前に使われるようになってきましたが、NOKではもう何十年も前から「企業は株主・従業員・社会の三者の共有物である、というのがNOKグループの基本的考え方だ」ということを従業員に言って聞かせてきました。しかし毎日、朝早くから夜遅くまで残業したりしている人たちにとって、苦労して稼ぎ出した金はすべて自分たちのものだと思っている輩が多いし、自分たちだけが良ければ良いと考えている人がいますから、常に、こういうことを手を変え品を変え言いまくっていないといけませんね。まぁしかし、こんなことを言っても、今の若い人たちはピンと来ませんね。
しかし、一般従業員に「ルール」を守るということを教え込む、そしてもし失敗や間違いを起こした時、正直に上司に報告、連絡、相談をするという職場雰囲気を作るということは、実に大変なことなのです。一朝一夕ではできません。これは日頃の、部下と上司の関係が信頼と愛情に満ちていないとできないのです。例えば「交通ルール」についてですが、NOKでは過去30年以上にわたって「交通事故、違反撲滅キャンペーン」を行っています。これは、自動車産業にかかわる企業として社会的責任がありますし、交通事故は被害者も加害者も非常に惨めなことになります。私たち従業員、家族から不幸な犠牲者をなくしたいということから、交通事故、違反をした場合、包み隠さず会社に報告してもらうようにしています。会社としてはこれを公表します。もし飲酒運転とか大きなスピード違反とか悪質なモノがあれば、会社としても処罰をします。プライベートの時のことで、しかも社会的制裁に加え、会社でも制裁を加えられれば不満もありますし、法律的に問題があるのではと思われますが、これは組合を含め、皆で納得ずくで行っています。このような事故・違反の経験を職場で皆で話し合い、そして仲間から犠牲者をなくそうとすることで、お互いに経験を披露し、風通しの良い職場作りに役立てております。交通ルールというのは、最も身近な社会的ルールです。これをさらに他の社会のルールを加え、モラルアップに活用するわけです。社会でのルールを守ることが出来ない人間が、会社でのルールをどうして守れるか、というように発展させて行くわけです。交通事故・違反を会社の中で公表するというのは、大変効き目があります。社会的制裁よりも、会社の制裁の方がよほど恐ろしいようです。勿論、罰があれば賞も用意されています。幸いにして、NOKのような多人数の会社にしては、交通事故・違反は極めて少ないと自負しています。
さて今までお話ししてきたのは、仕事の基本である「ルールを守る」ということをどうやって教え込むかということで「ミス・失敗しても個人の責任を問わない」「むしろオープンにして再発防止を皆で考える」「一番身近な社会的ルールとしての交通違反をまずなくす」「職場の中で部下と上司の間で信頼と愛情の関係を醸成する」「風通しの良い職場雰囲気を作る」などを話してきました。
私は、日本の国の終身雇用制を基礎においた会社や組織への帰属意識、ファミリー意識というのはやはりいいものだなぁと思っています。私は今の日本の教育制度、政治には全く絶望しています。義務教育に、やれ「ゆとりだ」「個性だ」「英語だ」などと言って、日本人に大事な「読み書きソロバン」を軽視してきましたが、国はそうした流れを一層加速させようとしています。私たちの会社には今後、理解力、思考力、表現力の劣る若者が、続々と送り込まれてくるのではないかと大いに心配しています。「自由な発想のできる個性的人材」というのは、会社の方針や組織の規律、上司の命令に従う忠実さを欠いていれば、害悪をもたらします。
職場のルールを守らず、反社会的な言動の絶えない社員は、どれほど能力が高く個性的であっても、単なる不良社員にすぎません。この不況下、全員で一致団結して踏ん張らなければならない時に、みんなが自分第一でバラバラな方向を向いていては勝ち目はありません。私たちの会社は、モノ造りと共に人作りをしっかり行っていこうと考えています。これも、私たちのような企業の役割であり、責任ではないかと思っています。
私たち自身、至らないことが多い故に、願望を込めてこんな話になってしまいました。
以上、手前味噌な内容が多くあり、お聞き苦しいところがあったと思いますが、ご容赦願います。
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